INTRODUCTION

映画『美しい夏キリシマ』の脚本、映画『紙屋悦子の青春』の原作を手掛けた長崎出身の松田正隆による《読売文学賞 戯曲・シナリオ賞受賞》の傑作戯曲を、濱口竜介、三宅唱に次ぐ次世代の映画界を担う気鋭の演出家・玉田真也の監督・脚本で映画化。本作は、雨が降らない夏の長崎が舞台となり、撮影は、2024年9月に全編オール長崎ロケで行われ、坂の多い長崎の美しい街並みが物語の余白を埋める大きな役割を果たしている。原作となった松田正隆による戯曲は、平田オリザが1998年に舞台化して以降、幾度となく舞台で上演されており、2022年には主演・田中圭、演出・栗山民也で上演された。監督の玉田真也も自身の劇団「玉田企画」で2022年に上演した思い入れの深い作品で、念願が叶い今回の映画化となった。
キャストには、愛を見失った主人公・小浦治を本作で共同プロデューサーも務めるオダギリジョーが、治の姪・優子を2025年度後期NHK連続テレビ小説のヒロインに抜擢された髙石あかりが、治の妻・小浦恵子を、『ファーストキス 1ST KISS』の松たか子が演じている。さらに、優子の母で、治の妹・阿佐子役に『ラストマイル』の満島ひかり、優子へ好意を寄せる・立山役に『少年と犬』の高橋文哉、治が働いていた造船所の同僚・陣野役にフォークシンガーの森山直太朗、同じく同僚の持田役に名優の光石研を迎え、豪華なキャスト陣が作品世界に彩りを添える。また、『国宝』『流浪の月』などを手掛けた原摩利彦の音楽がさらに物語を豊かにしている。そのほか、2024年度の賞レースを席巻した『夜明けのすべて』の撮影・月永雄太と、照明・秋山恵二郎が参加するなど、日本を代表する俳優と新鋭のキャストそして、日本映画の第一線で活躍するスタッフが揃い、極上の人間ドラマを完成させた。

STORY

雨が一滴も降らない、からからに乾いた夏の長崎。
幼い息子を亡くした喪失感から、幽霊のように坂の多い街を漂う小浦治(オダギリジョー)。
妻の恵子(松たか子)とは、別居中だ。この狭い町では、元同僚の陣野(森山直太朗)と恵子の関係に気づかないふりをするのも難しい。働いていた造船所が潰れてから、新しい職に就く気にもならずふらふらしている治の前に、妹・阿佐子(満島ひかり)が、17歳の娘・優子(髙石あかり)を連れて訪ねてくる。おいしい儲け話にのせられた阿佐子は、1人で博多の男の元へ行くためしばらく優子を預かってくれという。こうして突然、治と姪の優子との同居生活がはじまることに……。

高校へ行かずアルバイトをはじめた優子は、そこで働く先輩の立山(高橋文哉)と親しくなる。懸命に父親代わりをつとめようとする治との二人の生活に馴染んできたある日、優子は、家を訪れた恵子が治と言い争いをする現場に鉢合わせてしまう……。

CAST

小浦 治 / オダギリ ジョー
坂の途中にある一軒家に暮らしている。
治の姪・川上 優子/ 髙石 あかり
阿佐子の17歳の娘。学校へ行かず、スーパーでアルバイトをはじめる。
治の妻・小浦 恵子/ 松 たか子
息子を亡くしてから、治との生活にやりきれない思いを抱き別居している。
治の妹・川上 阿佐子 / 満島 ひかり
おいしい儲け話にのせられ、兄の治へ娘の優子を預け、単身で博多へ向かう。
治の職場の元同僚・陣野 航平 /
森山 直太朗
治と同じ造船所で働いていた。治の不甲斐なさから、治の妻・恵子に寄り添っていたが…。
優子のアルバイト先の先輩・立山 孝太郎 /
高橋 文哉
長崎の大学に通い、東京からきた優子を何かと気にかける。
陣野の妻・陣野 茂子 / 篠原 ゆき子
治の妻である恵子と夫の関係を疑っている。
治の職場の元同僚・持田 隆信 / 光石 研
治と同じ造船所で働いていた。現在はタクシーの運転手をしている。
小浦 治 /オダギリ ジョー
COMMENT
脚本を読んだ瞬間『これは良い作品になる!』と感じた僕は、すぐにプロデューサーを買って出ることにしました。俳優としては勿論、様々な面で役に立てれば、という思いからでした。 松さんや満島さんを始め、信頼できるキャスト、最高のスタッフが共鳴してくれ、真夏の長崎にこの上ない土俵が用意されました。あくまで玉田監督の補佐的な立場を守りつつ、隠し味程度に自分の経験値を注ぎ込めたと思います。昨今の日本映画には珍しい『何か』を感じて頂ける作品になったと信じています。
治の姪・川上 優子/髙石 あかり
COMMENT
長崎での撮影は、優子が過ごしたあの時間のように、自分にとってとてもかけがえの無いものとなりました。 優子は、儚さと強さ、大人っぽさと少女らしさ、一人の人間の中で全く違う性質が混ざり合う独特な空気を持っています。そんな繊細な彼女をどう演じたらいいのか、長崎に入る前に玉田監督とお話しをさせていただき、”ありのままの自分”で精一杯役と向き合うことにしました。 そんな撮影期間は、カメラの存在を忘れ、作品と現実の境目が曖昧だった気がします。 こんな経験は初めてで、これ程までに熱中出来る環境を作ってくださった、監督をはじめ、キャスト、スタッフの皆様には感謝しかありません。改めて、この作品に携わらせていただけたこと、心から光栄に思います。
治の妻・小浦 恵子/松 たか子
COMMENT
暑い夏の長崎での撮影を懐かしく思い出します。 小浦家への道のりは、特に機材を運ぶスタッフの皆さんは本当に大変だったと思います。 でも、全員が汗だくになりながら、この映画の世界に向かって歩いていたように思います。 初めて読んだ脚本は、元々戯曲であったことに驚くほど、様々な風景が浮かぶ「映画」のホンでした。 他者に共感や理解を求めない、なんともいえない、滑稽で愛すべき人たちが出てくるお話のような気がします。恵子が愛すべき人間かというと、それはわかりませんが…。 オダギリさんとのお芝居はとても楽しかったです。

STAFF

監督・脚本:玉田真也
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原作:松田正隆 
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音楽:原 摩利彦
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製作・プロデューサー:甲斐真樹
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共同プロデューサー:オダギリジョー
アソシエイトプロデューサー:梅本竜矢 白川直人
撮影:月永雄太  照明:秋山恵二郎 
録音:山本タカアキ
美術:井上心平 
装飾:小林宙央  衣裳:立花文乃
ヘアメイク:那須野詞  編集:ウエダアツシ 
音響効果:佐々井宏太
  音楽プロデューサー:田井モトヨシ 
カラリスト:高田淳
助監督:久保朝洋  制作担当:中村哲也 
監督・脚本:玉田真也
COMMENT
今まで読んできた戯曲は数多くありますが、この「夏の砂の上」は僕にとって特別な作品であり続けました。僕たちが生きる上で避けられない痛みや、それを諦めて受け入れていくしかないという虚無、そして、それでも生はただ続いていくという、この世界の一つの本質のようなものがセリフの流れの中で、どんどん立体的に浮かび上がってくる素晴らしい作品です。その作品を映画にするということは僕にとって念願であったとともに、挑戦でした。演劇としての完成度があまりにも高いと思ったからです。そして、その挑戦は間違っていなかったと長崎での撮影を始めて確信していきました。長崎の街の中に入っていくと、この街自体を主人公として捉えることができる、これはきっと映画でしかなし得ない体験だと感じていったからです。僕の頭の中だけにあった固定された小さな世界が、長崎という街と徐々に融合してより豊かに大きく膨らんでいく感覚でした。この映画を皆さんに観ていただけるのを楽しみにしています。 そして今回、素晴らしい俳優たちに集まっていただきました。演出するにあたり、皆さんとても協力的にアイデアを出してくださり、何一つストレスなく撮影をすることができただけでなく、何度見ても芝居が面白く、最前列で観るお客さんのように彼ら彼女らの芝居をただ楽しんでいる瞬間もたくさんありました。皆さんの芝居に、この映画を想定の何倍も上に引っ張ってもらえたと思います。とても贅沢な時間でした。
PROFILE
1986年、石川県出身。玉田企画主宰・作・演出。自身の劇団「玉田企画」のすべての作品で作・演出を担当。2019年に今泉力哉監督と共作した舞台「街の下で」を発表。2020年にテレビドラマ『JOKER×FACE』(フジテレビ)の脚本で、第8回市川森一脚本賞受賞。最新公演『地図にない』が2025年3月27日(木)〜4月6日(日)下北沢・小劇場B1にて上演される。監督を務めたその他の映画作品に、第31回東京国際映画祭「日本映画スプラッシュ部門」に出品された『あの日々の話』(2019)、又吉直樹の原作を映画化した『僕の好きな女の子』(2020)、三浦透子を主演に迎えた『そばかす』(2022)などがある。
原作:松田正隆
COMMENT
部屋を見つめる演劇から、街を感じ取る映画へ。映画には長崎の光景がいくつも映し出されている。坂道をのぼりつめた果てにある家からの眺めだけで、言葉にならない感覚をこの映画は私たちに与える。戯曲に書かれた台詞が生み出す感情は、坂を上り下りする俳優の身体の運動に変換されている。キャリーバッグを引く優子が母とともに坂を上るとき、坂の上で指をなくした小浦が息を吐くとき、人々が言い知れぬ人生を抱えながらも、繁華街で仕事をし飲食をするために坂をおりるとき、カメラはそれらの特別な感情を映画の場面に映し出す。私は、戯曲が消え去り映画に生まれ変わることを望んでいた。この映画を観て、何よりも映画らしい経験を得たことがとても嬉しかった。
PROFILE
1962年長崎県生まれ。劇作家、演出家、マレビトの会代表。96年「海と日傘」で岸田國士戯曲賞、97年『月の岬』で読売演劇大賞作品賞、99年「夏の砂の上」で読売文学賞を受賞。2003年より演劇の可能性を模索する集団「マレビトの会」を結成。主な作品にフェス ティバル・トーキョー2018参加作品「福島を上演する」 2022年ロームシアター京都海辺の町二部作「シーサイドタウン」「文化センターの危機」など。
2012年〜2013年立教大学 現代心理学部映像身体学科教授。このほか、黒木和雄監督の「戦争レクイエム三部作の二作『美しい夏キリシマ』(2003)の脚本、映画『紙屋悦子の青春』(2006)の原作を手がけている。

〈主な受賞作〉
1993年 「坂の上の家」 第1回OMS戯曲賞大賞受賞
1994年 「海と日傘」第40回岸田國士戯曲賞受賞、第2回OMS戯曲賞特別賞受賞
1998年 「月の岬」第5回読売演劇大賞最優秀作品賞受賞
1999年 「夏の砂の上」第50回読売文学賞戯曲・シナリオ賞
音楽:原 摩利彦
PROFILE
京都大学教育学部卒業。同大学大学院教育学研究科修士課程中退。静けさの中の強さを軸にピアノを中心とした室内楽やフィールドレコーディング、電子音を用いた音響作品を制作する。2020年にアルバム『PASSION』をリリースし、その後2021年に『ALL PEOPLE IS NICE』をデジタルリリース。アーティストグループ「ダムタイプ」へ参加。野田秀樹作・演出の舞台『正三角関係』『兎、波を走る』『フェイクスピア』『Q』等、ダミアン・ジャレx名和晃平のダンス作品『VESSEL』、森山未來x中野信子xエラ・ホチルドの舞台作品『Formula』、 田中泯x名和晃平の舞台作品『彼岸より』、彫刻家名和晃平のインスタレーション作品、JUNYA WATANABE COMME des GARCONSのショー音楽、東京2020オリンピック開会式追悼パート(森山未來出演)、映画監督の李相日による最新作『国宝』(出演:吉沢亮・横浜流星 その他)や同監督による『流浪の月』(出演:広瀬すず・松坂桃李)、映画『ロストケア』(監督:前田哲 出演:松山ケンイチ・長澤まさみ)、映画『鹿の国』(監督:弘理子)、NHKドラマ『幸運なひと』(出演:生田斗真・多部未華子)、NHKドラマ『デフ・ヴォイス 法廷の手話通訳士』(出演:草なぎ剛)、NHK『日曜美術館』新テーマソング(坂本美雨と共作)、Apple Japan やNetflixCMなど多岐にわたって音楽を手がけている。Marihiko Hara&Polar M として 2023 年フジロック・フェスティバルへ出演。2024年に世界遺産を舞台としたコンサート「音舞台」にて音楽監督を務め、出演も果たした。同年に「PIANO ERA」へも出演。令和3年度京都府文化賞奨励賞受賞。
製作・プロデューサー:甲斐真樹
1965年、福岡県出身。
青山真治監督『チンピラ』(96)、『WiLd LIFe』(97)、『冷たい血』(97)などをプロデュース。
2005年に代表を務める「スタイルジャム」を設立。
『パビリオン山椒魚』(06)、『サッド ヴァケイション』(07)、『転々』(07)、『色即ぜねれいしょん』(09)、『共喰い』(13)などの話題作に携わる。
最近の主なプロデュース作品には、『南瓜とマヨネーズ』(17)、『生きてるだけ、愛。』(18)、『ぜんぶ、ボクのせい』(22)、『グッバイ・クルエル・ワールド』(22)などがある。